じゃんけん
【メイドイン地元の話】
僕の地元沖縄県浦添市には、いつなんどき誰の挑戦でもじゃんけんの勝負を受けてたつ「じゃんけんヒロキ」という名の有名なお兄さんがいる。
浦添の街を歩いているヒロキに
「じゃーんけーん!」
と声をかければいつでもじゃんけんをしてくれる。
ヒロキとのじゃんけんに勝てば戦利品として、その時ヒロキが持っている何かを貰える。
負ければそれで終わりのこちら側には何も損のないノーリスクハイリターンなじゃんけん。(負けてもたまに何かくれる)
僕は中学生の時、街中でヒロキにじゃんけんで勝ち、ヒロキは戦利品を持っていなかったのか
「ここで少し待っててくれ」
と言い残しどこかへ行ってしまった。
じゃんけんをした場所で20分程待っているとヒロキはタイトルの書かれていない沢山のビデオテープを紙袋に入れて戻り
「はい、これあげる」
と言い、またどこかへ去っていった。
「エロビデオかな!?」
なんて思いながら家で戦利品のビデオを観てみると、全部女子プロレスだったので光速で捨てた。
プロレスは好きだが、当時の僕は思春期真盛りも真盛りで盛りまくっていたので、エロではなくプロレスだったショックは隕石衝突がチワワぐらい可愛く見える程ごついものだった。
僕はその日から街中でヒロキに会っても
「もうあんな思いはごめんだ」
とヒロキとのじゃんけんを避けた。
それから時は経ち僕も大人になり、結婚もし、子供もでき、浦添から宜野湾へ引っ越してヒロキを街中で見かける事はなく、ヒロキを思い出す事もなくなった。
でも先日、姉の運転する車の助手席に座り浦添の58号線の流れる景色を見ていると、歩道を歩いているヒロキを久しぶりに見かけた。
僕は嬉しかった。
「俺は大人になったよ!エロビデオなんてもういらないよ!俺はもう女を知ってるよ!あの時の事は良い思い出だよ!ヒロキとまたじゃんけんしたいよ!」
と思っていると、神が気を使ってくれたのか信号が赤で車が減速した。
僕はこれはチャンスだと、ヒロキに向かって大声で「じゃーんけーん!」と叫びチョキを出した。
するとヒロキは
「ん!んん!?んんんんんんんん!?」
とキョロキョロし、僕の乗った減速中の車を見つけた瞬間じゃんけんも出さず猛ダッシュで追いかけてきた。
僕の乗った車は第二通行帯で、ヒロキは第一通行帯の走ってる車をわざわざ制止しながら赤信号で停止した僕の乗る車に近づいてきた。
「危ない危ない!ヒロキ来なくても大丈夫だから!」
と叫んでも、危険をかえりみず僕の前まで来てくれたヒロキは、自身の着ているピッタピタのロングTシャツの襟から胸元に手を突っ込み
「はい、これあげる」
とカフェラテを取り出した。
なぜゆえそこにカフェラテ?そしてどうやって入れてた?
疑問は尽きない。
ヒロキの胸元で温められたのか、カフェラテは温かかった。
歩道に去っていくヒロキの背中を見つめながら僕は思った
「カフェラテ、マジでいらない」
でも数年ぶりのヒロキとのじゃんけんは楽しかった。
考えたらヒロキじゃんけん出さないで車道に飛び出して来たけど。
ヒロキ・・・
まさか車道に飛び出してまで来てくれるとは思わなかった・・・
車からじゃんけんなんて、俺も悪かったけど、今度同じシチュエーションがあったら危ないからマシでやめた方がいいよ。
そんなヒロキが好きなんだけどね。
大人になったけど、俺もヒロキもあの頃のままだ。
安心したし、嬉しかったよ。
またじゃんけんしようね。
じゃーんけーん!
戦利品のカフェラテ
中学生の僕